組織についての研究から生まれた、あなたのチームの「イノベーティブ度を測る」指標
概要
U’eyes Designでは、組織のイノベーション創発を支援するために「アウトカムデザイン」という手法を使ってコンサルティングを実践しています。
この活動を通して、組織・チームの関係性やマネジメントに問題があると、イノベーションは創発されにくいという実態に直面しました。そこでイノベーション創発をより加速度的に推進すべく、組織の土壌開発、組織マネジメント手法の研究を開始し、イノベーションを創出しやすい組織にみられる要素を「イノベーティブ・オーガニゼーション・ツリー」という概念で発表しました。*1
また同時に、現状の組織やチームのイノベーティブ度合いを計測するためのツール「オーガニゼーション・ツリー・スコア」を開発しました。*2
ポイント
- イノベーションとカイゼン活動では仕事のプロセスや必要なマインドセットが異なる
- 人は自分の意思で行動しているようで、環境要因に多大な影響を受けて行動する生き物である
- 組織的にイノベーションを創出するためには、組織やチームの環境開発に目を向ける必要がある
- 環境とは物理的環境だけでなく、人間関係に影響を受ける精神的環境を含み、そのインパクトの方がより大きい
- チームのメンバーが日々何を感じているか、まずはその把握や共有が重要である
- この指標を使うことで、これまではビジネス上あまり重要視されてこなかった、「組織の関係性の問題」にフォーカスを当て、その改善を図ることができる
研究のプロセス
イノベーションとカイゼン活動
規定された価値や品質におけるカイゼン活動は、ある程度客観的に予測が可能な、確定的取り組みといえますが、イノベーション創出活動とは、「今までにない新しい価値や品質の軸を見つける活動」「新しい市場を創造する活動」であるため、客観的な評価や予測が難しい取り組みです。そのようなイノベーション創出活動においては、事業に携わる人(チーム)が、自分事と思えるアウトカムを描くことが重要になると考えています。
アウトカムとは
アウトカムとは「イノベーションにおける本質的な目的、生活者にとっての未来の『理想の姿』のこと」です。その『理想の姿』をチーム・組織で描き、共有していることが重要だと私たちは考えます。
自分事として捉えられるアウトカムが描かれているからこそ、イノベーションに向かう動機が維持され、不確実な状態で失敗を繰り返しながらも柔軟性をもってやり遂げるレジリエンスを発揮することが可能となります。
メンバーの関係性
組織やチームでアウトカムを描く際には、ダイアログと呼ばれる対話の手法を用いて「間主観」という状況を創り出します。「間主観」は自分の主観と相手の主観を交換し合い、相互に影響を与え合うことで、一人では生まれなった新しい主観を他者と共有して持っている状況を指します。
したがって、誰かが一方的に自己主張し、相手に考えを強いているような関係性では、「間主観」は持てません。同様に、自分事となっていない、誰かから強いられたアウトカムでは、イノベーションに向かう動機づけにはなりません。
イノベーティブ・オーガニゼーション・ツリー
私たちは先行研究を分析し、イノベーション組織に必要な要素を6つ抽出しました。またそれらを、目に見える領域(個人の行動特性)と目に見えない領域(=チームの環境特性)の2つに分けました。
<図:イノベーティブ・オーガニゼーション・ツリー>
目に見える領域(地上の枝・葉の部分)=イノベーションに必要な、個人の行動特性
目に見える領域は、イノベーションを引き起こすために必要な個人の行動特性に関する要素を定義しています。
先述したように、イノベーションを創出するには、不確定な取り組みを牽引し継続していく態度・振る舞いが重要です。<好奇心>やチャレンジ精神を発揮し、<失敗に向き合える>精神力、むしろ失敗を一つのフィードバックとみなして、チャレンジとフィードバックを高頻度で繰り返し実行していくことで<自己を変容>させ、結果としてイノベーションを引き起こすことができると考えます。
目に見えない領域(地下の根っこの部分)=イノベーションに必要な、チームの環境特性
目に見えない領域は、個人の振る舞いに影響を与えるチームの環境特性の要素を定義しています。
私たちは長年、ヒューマンファクターズ(ヒトという生き物に対する深い理解)をコアコンピタンスとして製品開発やマーケティングの支援をしてきました。その中で、人間の考え方や振る舞いは、個人の意思に基づく選択というよりも、ほとんどがコンテクスト(環境や状況)に左右されることを確信しました。イノベーション創出に関しても、個人の特性を引き出しエンパワーする仕組みや、人間関係を含めた環境づくりこそが重要であると考えています。
表面ではなく、内面的な多様性を発揮させる
前述の<好奇心>を刺激するには多様性がトリガーになります。近年ダイバーシティ経営が推奨されていますが、女性や外国人・障がい者の雇用など表面的な多様性を確保するだけでなく、生活文脈の違いから生まれる、関心や価値観など内面的な多様性を尊重し活用することによって、一人ひとりの気づきが共有され好奇心が発揮されやすい土壌が育ちます。
利他的なアウトカムで、多様な個性をつなげる
しかし日本では長らく同質性を評価する教育や管理方法が主流であったため、個人個人がもつ個性を活かすマネジメントが根付いていません。また多様な価値観を持った人たちをただ集めて自由にさせるだけでは無秩序なカオス状態になるだけですので、そこには軸となる、組織の共通の目的いわば<大義>が必要となります。私たちはこの<大義>をイノベーションにおける究極の目的<アウトカム>と同意として定義しています。組織の共通の目的であり、かつ、生活者に提供することをイメージした利他的な目的であることがポイントとなります。
この究極の目的を共有することによって、多様な価値観を持った人たちが同じ方向を向いて組織化されるのです。
心理的な安全性を担保することで、状況認識の精度を上げる
また多様な人たちがその「ありのまま」を認められ、目的を共有している場には、<心理的な安全性>が生まれます。心理的な安全性とは、感じたことや疑問、不安などを気楽に口に出すことができるという意味です。不確実なイノベーション創出の場では、一人ひとりの些細な気づきや直感を共有することで、状況認識の精度を上げていく必要があります。そういった気づきの共有(センスメーキング)を、躊躇なく行えること、いわば直感的な情報のやりとりがしやすい状態であることが重要になってきます。
そうした<心理的な安全性>が保たれた場でこそ、前述した<失敗に向き合える>態度が強化され、チャレンジ&フィードバックが繰り返されうるのです。
オーガニゼーション・ツリー・スコアの完成
このイノベーティブ・オーガニゼーション・ツリーの概念を使って開発した、組織やチームのイノベーティブ度合いを測るための指標が<オーガニゼーション・ツリー・スコア>です。
イノベーション組織に必要な6要素について、「自分自身のふるまい」「近しい仲間との関係性」「所属する組織全体に対する感じ方」の3つの観点からなる18問の質問にメンバー全員が回答することにより、組織のイノベーティブ度合いを計測することができます。
<総合OTSスコア、個人・チーム・組織のスコアと要素別結果チャート>
私たちはこのスコアをきっかけとして、組織の風通しを変え、日本の仕事環境がイノベーティブなものに変革していくことのお手伝いをしていきたいと考えています。
- メンバー
- 高橋祥、竹中薫
- タグ
- デザイニング・アウトカムズ研究所