デザイン思考・人間中心設計の落とし穴(1)
こんにちは、デザイニング・アウトカムズ研究所の田平です。
イノベーションを創出する手段として、デザイン思考や人間中心設計プロセスが有効なのではないかと言われています。私たちの経験からも確かにそうです。それには間違いはないと確信しているのですが・・・
しかしながら、これらの手段を実践したにも関わらず、「今までのアイデアとあまり変り映えしない」、「本当にデザイン思考や人間中心設計プロセスでイノベーティブなアイデアが出てくるのだろうか?」と訝しげな人もいます。いや、ほとんどの人がそうなのかも知れません。特に経験済みの人は・・・
デザインコンサルティングをしていると、そのような落とし穴に嵌ったクライアントを多く見受けます。ではなぜ、その落とし穴に嵌ってしまうのでしょうか?
これには3つの罠が潜んでいると感じています。
(1)手段が目的化している
ひとつは、デザイン思考や人間中心設計プロセスの実践そのものが目的化していることが挙げられます。
ユーザーを観察すること、ペルソナを描くこと、カスタマージャーニーマップを作ること、みんなでアイデアソンを実施してアイデアをシートにまとめることなど、これら中間生成物の作成に心血を注ぐなど、それが最終の目的になっていませんか?
デザイン思考や人間中心設計プロセスは手段・ツールに過ぎません。優れたデザイナーなら、本来は暗黙知でやっていることです。それを私たちのような一般の人でも実践できるように、手続きを簡便に明示化しているものです。しかしながら、その手続きのひとつひとつを目的化してしまうと、それだけでやった気になり、疲れ果ててしまい、それ以降が続きません。
(2)改善活動と同じやり方に固執している
もうひとつは、イノベーションの創出を目指しているのに、これまで慣れ親しんできた改善活動の仕事の進め方、成果の求め方をしてしまっているという点です。
取り組みを進めるための網羅的な根拠データを揃えることにこだわっている、短期的に確実な成果を求められて焦っている、などがありませんか?
こうなると、頭の中で考え過ぎてなかなか行動に移せない状態になってしまいます。イノベーションの創出には、改善活動とは違う少なからぬリスクがあります。これは、前回の記事とも関連しますが、イノベーションの創出と改善活動では、プロジェクトの目的の持ち方、プロセスの進め方、成果に対する態度は全く異なりますので、新たな取り組み方が必要です。
(3)人間の心理・行動の特性を活かしていない
最後に、人間の心理と行動の特性を知らないまま、デザイン思考や人間中心設計プロセスを実践しているという点です。
ユーザーを観察した結果、目の前で起きた枝葉末節な現象に振り回され、まとまりが付かないという経験はありませんか? また、みんなでアイデアを検討しているとき、出会い頭のグッドアイデアを期待していませんか? もちろん、そんな素晴らしい瞬間もありますが、そのようなことが起こるのは稀です。
ユーザーを深く理解し、アイデアを洗練させるには、バックグランドの知識である人間工学、心理学、認知科学、社会学などを十分理解したうえで、理屈で詰めていく必要があります。この人間の心理・行動の特性を知らずにこれらを実践することは、氷がセットされていないカキ氷機のハンドルをぐるぐる回しているようなもので、手ごたえのない活動になってしまいます。
残念ながら、デザイン思考や人間中心設計プロセスを、書籍や教科書に書かれているようにトレースすれば、自動的にイノベーティブなアイデアが次から次へと出てくる、というわけではありません。
では、どうすればこの落とし穴から抜けられるのでしょうか? 次回からは、そのあたりについて詳しく述べたいと思います。