ヒトの進化過程からコミュニケーションと組織デザインについて考えてみる
こんにちは、代表の田平です。私が専門とするヒューマンファクターズについて(不定期に)語るシリーズ、2回目です。今回は、ヒトの種としての進化に関するお話です。
脳の中の地図
まず、下の図をご覧ください。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、これらは、ペンフィールドマップ(上)とペンフィールドのホムンクルス(下)と呼ばれるものです。米国の脳神経外科医であったペンフィールド博士が行った研究によるもので、脳が身体に対する刺激を知覚し、運動するしくみを表現しています。
左右脳半球のそれぞれには感覚野と運動野の2つの地図が広がっており、図をよく見ると周縁にヒトの身体の部位が描かれています。それぞれの地図において大きく描かれているほど、その部位は感覚が鋭敏だったり繊細な運動ができたりすることになります。さらにこの地図を人形として立体化したものが、ペンフィールドのホムンクルスです。SENSORY人形のほうは、感覚が鋭敏な部位が大きく、MOTOR人形のほうは繊細な動きができる部位が大きく表現されています。
指先を少しでも怪我するといつまでも痛いですが、これを見ると納得できますね。逆に、注射などはSENSORY人形でいうところの小さい部位に刺してやることで、痛みが少なくて済むことになります。 MOTOR人形のほうは、さらにまして手が大きくなっていますが、この手先の動きの繊細さは、ヒトと、サルやチンパンジーとを分かつ大きな違いでもあります。
進化論から見たヒトの身体能力
ヒトとチンパンジーは、およそ600~700万年前に共通の祖先から分かれたと言われており、今の身体能力で比べると、下のように差が開いています。
チンパンジーのあらゆる筋力は、鍛え抜かれたアスリートの少なくとも倍以上あるのです。ヒトに対して「霊長類最強○○」とか軽々しく使っちゃいけないということですね。
この600万年ほど、チンパンジーは、以下のように過ごしてきました。
【チンパンジー】
- 温暖で湿潤なエリアで生き残った
- 半径数キロ内の木の実や草を食べる
- 周りにあるものを手に取って食べる
- 一日の大半を咀嚼して消化して過ごす
チンパンジーは、食ってばっかりの怠惰な生活をしている印象ですが、繊維質の多いものを頑丈な歯と顎で咀嚼しなければならないので、一日中、クチャクチャしてたのです。その一方、ヒトはというと…
【ヒト】
- 寒冷で乾燥したエリアで生き残った
- 食物を求めて2足歩行で森から森へと移動する
- 手で道具を使って獲物を捕え加工する
- 食べ易く、消化吸収が良い状態の食物を口にする
このように長い距離を移動しながら、食物を探し回る羽目になりました。この過程で2足歩行になったのは、長い距離を移動するのに、ナックル歩行だと全身の筋肉を使うため、効率が悪いからです。その結果、ヒトは以下のように進化しました。
- 2足歩行で、腕・脚の筋肉の一部の運動機能が退化する
- 消化の良い食事で、顎と腸が退化する
- 代わりに大脳(前頭前野)が発達する
- 2足歩行で骨盤が受ける形になる
- 産道が骨盤の間を通る構造になり、未熟な子供を産む
- 未熟な子を守る群れとして、他の動物とは異なる生活形態になる
- 狩りに出かける人間と、子を育てる人間の助け合いのコミュニティを形成する
- 瞬発力ではなく、持久力とチームワークで獲物をしつこく追い回す
- コミュニケーション機能を発達させる。白目が多くなり、発話・言語を獲得する
- 神話・信仰を創造し、秩序ある社会を構築する
つまり、他の生き物と比べたときの、個体としての身体能力の脆弱さを、助け合い、チームワーク、コミュニティとしてのまとまり、他者とのコミュニケーション、そして神話・信仰によって補完してきたわけです。これらの社会性が他の生き物との違いであり、今を生きる私たちにも強く残る、ヒトの本能でもあります。
ヒトのコミュニケーション機能
上で「コミュニケーション機能の発達」として、言語と並んで、白目が多くなったことを挙げました。
チラ見、二度見、ガン見、目配せ…他人に対するそれぞれの目の使い方が意味を持ち、コミュニケーションの機能を果たしていることが容易に想像できると思います。確かに、白目がほとんどないサメに二度見されても気づけませんよね。何処を見てるのか分からない目で、突然ガブリと襲ってくるのです。
このように、「目は口ほどに物を言う」との諺どおり、白目が可能にする繊細なコミュニケーション力は人間ならではのもの、と言えるのです。
ヒトのコミュニケーションには、Verval Communication(言語的コミュニケーション)とNon-verval Communication(非言語的コミュニケーション)があります。前者は会話や文字、印刷物などの言語的なやりとり、後者は顔の表情や声の大きさ、身振り手振りやジェスチャーなどの言語によらないやりとりを指します。視線は言うまでもなくNon-verval Communicationです。
メラビアンの理論によると、Non-verval要素で印象の93%は決まるといいます。
ちなみに弊社では日々、行動観察やエスノグラフィ、インタビューなどのユーザー調査を数多く行いますが、モニターさんの言葉だけでなく、こういったNon-verval情報を注意深く捉えることで、モノ・サービスひいては生活全般に潜む課題やユーザーの本質的要求に気づくことができるのです。言い換えると、Verval情報だけに頼っていては、通り一遍の表面的な情報しか得られず、真のユーザー理解が進まないことになります。
共通の思考フレームとしての神話の創造
それからもう一つ重要なのが神話・信仰です。コミュニティを作って暮らし、共通の目標(獲物)を目指してチームワークと粘り強さを武器に向かっていくヒトの群れには、価値観の共有を実現し、善悪の判断基準や行動規範といった社会秩序の根拠たりうる共通の思考フレームが必要でした。その役割を担ったのが原初の神話・信仰です。時代が下ってそれが宗教となり、21世紀の現代に至ってもヒト(コミュニティ)同士の対立の元になっていることを考えると、この本能がいかに強固なものかが窺い知れると思います。
ヒトはこのように、価値観を共有できる集団をつくり、目標を明確に捉え、チームワークによってそれを達成していくことを本能的に欲している生き物です。「価値観」を企業理念や事業コンセプトに置き換えると、それはそのまま、ビジネスの現場における組織デザインに当てはめることができます。
ヒトの本能を組織デザインに活かす
弊社では、お客様のチームがより活性化し、効果的に機能する環境をつくるために、組織のイノベーティブ度合いを測るための指標をつくりました。それを用いて、組織デザインの支援活動を行っています。詳しくは、無料セミナーでご紹介していますので、ご興味のある方はぜひどうぞ。
それでは今回はこのへんで。