「ヒューマンファクターズとデザイン」についてわかりやすく説明します
こんにちは、代表の田平です。これから何回かに分けて、私が専門とし、また、当社のコンピタンスでもある「ヒューマンファクターズ」についてご紹介していこうと思います。不定期です。
こちらは、かの有名な超音速旅客機コンコルド(2003年退役)の操縦席です。
このように複雑な操縦席に、下図のような一連のメーター群があったとしたらどうでしょう。
よく見るとDの針が正常な状態からズレていることがわかります。しかし、コンコルドのようにおびただしい数の計器がある中で、この異常に気がつけるでしょうか?
人間中心のデザインをするための知識体系
「ヒューマンファクターズ」とは、認知心理学・社会心理学・生理学・行動科学・脳科学など、生物としてのヒト(およびその能力)に関わる多くの学問領域における知見を、システムの安全性や効率向上のために実用的に活用しようとする総合的学問です。元々はヒトの特性に起因するエラー(ヒューマンエラー)が事故に直結しないようにと、例えば各種製造業や運輸(それこそ航空機とか)、医療等の現場から導入されはじめましたが、近年では、人が介在するあらゆる業界において、「人間中心のシステムをデザインするための基盤」となる知識体系として注目されています。
この学問の目的は、「ある環境に置かれた人間の特性・限界を総合的に理解した上で、工学的な応用をすること」、ひいては、「使いやすく、安心安全で、快適な、製品、サービス、空間(都市、建築、労働環境・組織)づくりにつなげること」です。
ちなみに上記の計器問題は、ヒューマンエラーを誘発して事故につながる香りがぷんぷんしますね。デザインし直すとしたら、計器自体をぐるっと回して例えば下図のように針が一列になるようにするのが妥当でしょう。勿論、答えはひとつではありませんが。
作り手と使い手のギャップを埋めるためのヒューマンファクターズ
さて、先ほどヒューマンファクターズが近年注目されていると述べましたが、学問としてのその歴史は結構古く、19世紀半ばにまで遡ることができます。
日本では1920年代の活動がそのはしりで、60年代に人間工学という分野として確立されます。どちらかというと、人間の特性の中でも主に身体機能に着目したものというイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
ではなぜ、そもそも、このヒューマンファクターズという知識体系が必要とされるようになったのでしょうか。 さらに時代を遡りますね。
大昔、ヒトが使う道具は非常に単純でした。また、道具を作る人と道具を使う人は多くの場合、同一人物でした。自分の道具は自分が使いやすいように拵えていたわけです。時代が下って職能が分かれても、生産者と使用者が直に向き合う、いわばOne to Oneのものづくりが長らく行われていました。この時代までは、作り手が使用者(ユーザー)を熟知しプロダクトをユーザーにフィットさせるためのものづくりが当たり前に行われていました。 この関係を変えてしまったのが、産業革命です。これを機に大量生産・大量消費とともに高機能化・複雑化・効率重視・コスト競争・縦割り組織…といった現代に連なる問題が生じ始めました。元々One to Oneだった作り手と使い手の関係は分断され、両者間の意識のギャップ問題が生まれるのです。
このギャップを埋め、ユーザーが使える製品をつくる必要から、そもそものヒトの能力の限界や生物としてのヒトの特性を考慮しようというのがヒューマンファクターズの狙いなのです。 その結果、例えば現代の航空機コックピットデザインにおいては、
- 読み取りやすい計器類
- 操作しやすい操縦機器
- エラーを低減する警告システム
などが実現されています。これらにより、
- 事故の減少
- 作業の効率化
- 生産性の向上
につながるわけです。
ユーザーインタフェースの見やすさや分かりやすさについて、「ユーザビリティ」という概念で括られがちですが、要因を細かく紐解いていくと、「人間特性」に即していないデザインが、使いにくさ(ユーザビリティの低さ)につながってしまっていることが非常に多いのです。それゆえ、人間(ヒトという生き物)の特性を対象とするヒューマンファクターズを学ぶことには大きな意義があると考えます。
人間とは、身体は脆弱で、認知機能はポンコツで、作業記憶は容量も少なくあやふやな生き物です。私たちは、そのことを理解した上でデザインしなければなりません。ちなみに、このヒトという生き物の残念さについては、次回以降で詳しく解説いたします。(また、弊社が開催しているセミナーでもご紹介しています。)
それでは今回はこのへんで。次回からはヒトの特性について、より具体的にお話していきたいと思います。